交通事故(その2)

自賠責保険の加害者請求と被害者請求、任意保険の一括払いの関係について

(以下便宜上加害者という言葉を使いますが正しくは被保険者というべきです。)

自賠責保険への請求はいわゆる加害者請求(15条請求)と被害者請求(16条請求)があります。加害者請求は加害者が被害者のために支払った費用を請求するものです。被害者請求は被害者が自分の人身損害についてのう損害賠償金を加害者にではなく自賠責保険に請求するものです。両請求が競合した場合(同時に出た場合)は15条(加害者)請求が優先となります。というのは、すでに加害者が支払った分がある場合に被害者請求を優先してしまうと被害者はその部分についていわゆる二重取りになってしまうからです。被害者請求のみが出た場合も保険会社は加害者に支払った(立て替えた)分がないか照会をします。ここでないと回答した場合はもちろんないものとして被害者請求の支払い作業に入ります。あると答えた場合は加害者請求も出してくださいというふうに保険会社は加害者にいいます。そして加害者が支払った分は加害者に、そのほかは被害者にという風に支払われます。加害者が支払った分(保険会社では「立て替え分」とか「既払い分」とかいうことがあります。)を自賠責保険に請求するには立証資料が要りますので領収書などは必ず保管しておかなければ支払ったとしても保険から支払ってもらえない可能性があります。治療費などの一部を加害者などが支払った場合で領収書を紛失した場合にも病院から発行された診療報酬明細書に(加害者)○○から領収済みと記載されていた場合にはその分は加害者に支払われます。

任意保険会社が事故冒頭から被害者に対し対応している場合はいわゆる一括払い(任意は保険分と自賠責保険分を一括して払うという前提)を行っているということになります。通常、任意保険会社は被害者側や病院に保険金を支払い後、自賠責保険相当分を自賠責保険に請求します。これは理論上も実務上も15条加害者請求とされています。したがって 任意保険会社既払い分については任意保険会社の請求が優先されますが、一括払い中であるからといって被害者請求(16条)を妨げるものではありませんので、自賠責に被害者請求を行うことは可能です。この場合、任意保険会社が被害者側(医療機関などへ支払った分を含む)に支払い済分を控除して残余があれば被害者に支払われるということになります。傷害(いわゆるケガ)でこのような例は稀ですが後遺障害事案、死亡事案の場合には後遺障害部分、死亡損害部分を先に被害者請求で確保の上、任意保険会社に損害賠償額の残余を求めるといった例はないわけではありません。非常におおまかにいえば死亡損害分が計算上5000万円あるとして先に自賠責の限度額3000万円を自賠責保険より支払いを受けたうえで残余の2000万円を任意保険会社(理論上は加害者)に求めるという形になります。ただこの場合任意保険会社との円満示談自体は実態上困難となることもありますので被害者側は調停あるいは訴訟にて残余部分を求めるという方針のもと行うことが多いようです。

共同不法行為と自賠責

よく知られていることですが被害者の受傷がいわゆる共同不法行為による場合(2台の車が衝突していずれか、または双方の車の同乗者が受傷した場合が多いですが、その他の態様、例えば2台の車の衝突に巻き込まれた歩行者や自転車の運転者なども考えられます。なおこれらの場合、自動車の運転者は共同不法行為による受傷者とはなりません。)、その受傷者のみについてはいわゆる2自賠に請求が可能となります。この場合自賠責の上限額(例えば傷害だと120万円)を損害額が超えた場合、更にもう一方の自賠責保険に残余を請求し受領できることとなります。(傷害の場合、上限額が合計240万円になるということ)死亡や後遺障害の場合も同様に2自賠に請求可能となり、上限額が2自賠合計で都合2倍になります。

一括払いと支払い教唆

通常、任意保険会社は自賠責保険分も含めて被害者側(被害者及び医療機関)に保険金を支払い(一応は契約者より保険金請求を受けたうえで契約者の指図を得て被害者側へ直接支払うという形をとりますが)その後、自社が支払った分について自賠責保険相当分を自賠責保険へ請求します。この形態を「一括払い」と言います。若干用語の混乱があり、事故の連絡を受けた後、医療機関に保険会社が直接治療費を支払う旨の連絡を入れることを「一括払い」と言ったりしますが、一括払いの正しい使い方は上記のとおりです。そして一括払いした金額が自賠責保険金を下回ることは許されない(意味として自賠責保険基準で計算した額を下回って支払い完了できない。)のですが、稀にこのような事態を招くことがあり、(要因は、計算間違い、治療日数の把握の間違い、よくわかってない人が示談をした、等々)その場合、示談のやり直しということになります。(ただし誤差一万円以内は許容される)このような事案を支払い教唆事案といいます。自賠責を下回れないということは傷害なら120万円以下で示談できないという意味では決してなく、個々損害項目について自賠責基準で計算した結果の合計が一括払いした金額の合計を上回ってはならないということです。

過失割合率と過失相殺

過失割合は判例タイムズ社の別冊判例タイムズ16「民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準(全訂四版)東京地裁民事交通訴訟研究会編 」で判定します。これは裁判官が書いている点がミソで訴訟になったらこの基準で判定しますよといっているようなもので実際そのように運用されているといっていいでしょう。他の赤い本、青い本(日弁連と東京三弁護士会が出している本)もありますが、保険会社実務では過失相殺率(過失割合)判定については判例タイムズ社の上記の本を使うのが一般的です。旧版では自動車対自転車の事故が載っていなかったのですが最新版は載っていますので、ますます便利になっています。

カテゴリーとしては「歩行者と四輪車・単車との事故」「四輪車同士の事故」「単車と四輪車の事故」「自転車と四輪車・単車との事故」「高速道路上の事故」と5項目に分けられ全部で273パターンの事故が掲載されています。そしてそのそれぞれに修正要素が設けられ、基本の過失割合にプラス、マイナスを付け加え修正していきます。同じような道幅の道路が交わるところ(同幅員の交差点といいます。)での自転車と自動車の直進車同士の事故は基本過失割合は自動車が80%、自転車が20%の割合ですが修正要素として夜間であれば自転車にプラス5%で自動車対自転車=7525となります。(夜間は自動車のヘッドライト等で自転車側が自動車の接近に気づきやすいため。)

さて割合は基本的に道路交通法にもとづいて裁判上このように判断するとの見解とみていいと思いますが、背景的には交通弱者の一定の保護、自動車同士では、信号絶対、優先道路優先、一時停止標識の無い側優先、広路優先、左方優先といった考え方で編纂されています。各語の定義はかなり細かくなるのでここでは述べませんが同書に載っています。

さて道路交通法でポイントとなるのは36条の4「安全運転義務」違反というものです。

36条の4 車両等は、交差点に入ろうとし、及び交差点内を通行するときは、当該交差点の状況に応じ、交差道路を通行する車両等、反対方向から進行してきて右折する車両等及び当該交差点又はその直近で道路を横断する歩行者に特に注意し、かつ、できる限り安全な速度と方法で進行しなければならない。

 

これは交差点で一旦停止標識のない側にも過失が発生する等の根拠となるものです。この形態の事故は頻出でかつ非常によくもめますが信号のあるいわゆる「交通整理のされている交差点」と異なり、信号のない交差点では互いに過失割合が発生するのはこの項目によるものです。「できる限り安全な速度と方法で進行した。」等はほぼ立証不可能で交通整理野されていない交差点(信号のない交差点)で事故が発生した以上は優先車にも責任は問われるという実務上の取り扱いになっています。